大阪フィルのトップホルン奏者として、大阪音大や京都女子大で教壇に立った教育者として、そしてローカルな祭囃子などを取り入れた作風から「東洋のバルトーク」と言われた作曲家として、多彩な才能を持つ事で知られる大栗裕の没後30年を記念する演奏会が、20日ザ・シンフォニーホールで行われました。

(C)飯島隆
「大栗裕の音楽をこのタイミングで皆さんに知って頂きたい」 そんな思いで、大阪音大、「大栗裕没後30年記念演奏会」発起人会、大阪フィルが主催して開催したこのコンサートに、多数の方がご来場頂きました。
この場を借りてご来場の皆さまに御礼申し上げます。

(C)飯島隆
ザ・シンフォニーホールのロビーには大栗裕の直筆の楽譜や、愛用していたハーモニカ(大栗はピアノが弾けなかったのでハーモニカで作曲したといわれる)などが展示されていました。

(C)飯島隆
また、ホルンを吹く大栗裕の写真を中心にしたパネルも置かれてあり、記念にサインする方も多かったです。

このコンサート、参加団体、出演者が多く、ゲネプロはお昼間から行われていました。
それぞれの団体が思い入れいっぱいでザ・シンフォニーホールに臨んで来ているので、ゲネプロにも時間がかかります。
それぞれに見どころ聴きどころがたっぷりですが、どうしても注目したいステージがこれ。
コンサートのオープニングを飾る
『特別編成140人のホルン・オーケストラ』 です。
ホルンだけで140人、ステージに乗るの? いったいどんな‘絵’になるのかな? たとえ乗ってもちゃんと演奏出来るもんなの? など興味は尽きません

そこで初めて全員が集うゲネプロ風景をご覧になっていただきましょう!
舞台に譜面台が並んでいます。 椅子はありませんねえ。 スタンディングですか。
ホルンのメンバーは客席で待機中です。
舞台の転換を待っているメンバーの様子、少し見えますか?

すでに指揮者の手塚幸紀さんはスタンバイOK。
マエストロの隣に立っているステージマネージャー清水直行が「順番にステージに並んで下さい」と声をかけ始めました。
上手と下手から花道を伝って客席からホルンのメンバーが続々と上がって来ます。

手を挙げてステマネ清水が「譜面台は二人で1台です。 前から1列目、2列目の順番です。 あらかじめ決められた番号のところに立って下さい」と叫んでいます!
さっきまで綺麗に譜面台だけが並んでいたステージにみるみるメンバーが集まって来ました。

ほとんどがステージに乗ったのを見計らって、マエストロが指揮し始めました。
1曲目は“2つのファンファーレ”です。
最前列の上手女性6名、下手男性6名が交互に吹き始めました。

そして、最後は全員の合奏へと発展していきました。
ホルンの音って140人で一斉に鳴らしても喧しくないんですね

もちろん皆さんがお上手だということもあるとは思います。
また楽器の特性上、直管では無いからでしょうか?

(C)飯島隆
「大栗裕に所縁があれば、プロ、アマチュア問わず参加出来ます!」
その結果140名が集まりました。
年齢、性別、楽器のキャリアなど色々です。
本番の様子を正面から見るとこんな感じになります。

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下手2階から見た本番ステージの様子はこんな感じ。
最後の曲、ベートーヴェンの“自然における神の栄光”は圧巻でした。
全員で吹くボリュームが凄かっただけではなく、きちんとハーモニーが出来、アンサンブルしていた事がブラヴォーでした!
それにしてもホルニストって女性の演奏家多いですね、白い服はすべて女性です。
白組と黒組、圧倒的に白組の勝ち! そんな事を考えてしまう光景ですね

次のステージに向けた舞台転換が始まっています!
次もホルンの演奏です。

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『大阪音楽大学OBホルン・アンサンブルで』 です。
演奏するのは“馬子唄による変装曲又はホルン吹きの休日”という曲。
今回の発起人の一人でもある元大阪フィルトップホルン奏者 近藤望のために作曲した、大栗裕唯一のホルン作品です。
オーケストラ・スタディのように幾度と無くホルンの有名な曲が演奏されたと思えば最後は馬子唄にかえっていく曲で、大きな意味では民謡の変奏曲になるのでしょうか。
ベートーヴェン、チャイコフスキー、ドヴォルザーク、ワーグナー、Rシュトラウスなど、見事なソロを吹いたのは、先日退団したばかりの元トップホルン奏者 池田重一さん。
「まるでオーディションを受けてるみたいで気が休まらんかったわ!」
そりゃそうですね。このメンバーの前で吹くのは緊張するでしょうね

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すると舞台に馬子と馬が登場。
このコンビがお客様の笑いを誘うのですが、サスガにどことなく動きが音楽的です。
馬子に扮するは元大阪フィルトップトランペット奏者池田俊さん。
馬に扮するは、フリーランスのホルン奏者として活動されている友田拓さん。
舞台で演奏者に絡んだり、やりたい放題です。

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やりたい放題の挙句、馬子は指揮をしたいと言い出す始末。
お約束で一度は失敗しますが、なかなか立派に指揮をする馬子。
それをおとなしく見守る馬。
実は初演では大栗裕みずから馬子役をやって、名演技を披露されたそうです。
1984年の大栗裕追悼演奏会の時に馬子役をやったのが今回の池田さん。
池田さん、今回2度目の馬子役となります。

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指揮をするのが今回の発起人の一人、元大阪フィルクラリネット奏者兼補助指揮者で、第2部に出演の「唱歌の学校」を主催されている 泉庄右衛門さん。
となりにホルンの池田重一さんの顔が見えます。
笑いと見事な演奏、これエンタテインメントの基本ですよね

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大栗裕作品のジャンル的にも大変重要な位置を占めるのがマンドリンです。
長年にわたり技術指導をしていた名門
『関西学院大学マンドリンクラブ』 も出演頂きました。
指揮は同クラブの技術顧問を務めておられる岡本一郎さん。
日本における中世西洋音楽やルネサンス音楽の先駆者として知られている大御所です。
まず、男子部員が後ろに一列に並び、マンドリンクラブ部歌を演奏。

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そして、大栗の代表作“舞踊詩”を演奏しました。
マンドリン、マンドラ、マンドロンチェロ、ギター、コントラバス、フルート、クラリネットで奏でるオーケストラとしての総合音楽。
とても懐かしい郷愁に満ちたサウンド。
思いのほかダイナミックレンジも広く、ハートを鷲掴みされた気分でした。
90年以上の歴史がある名門関学マンドリンクラブ。
この機会がなければ聴けませんでした。
うーん、完全にやられました

これからも素敵な演奏活動を続けてくださいね。

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前半のトリを務めるのはやはりここしかないでしょう
、『大阪市音楽団』 です。
演奏したのは“吹奏楽のための小狂詩曲”と“吹奏楽のための神話~天の岩屋戸の物語による”の2曲、素晴らしかったです

サスガの貫禄というのでしょうか、良く楽器が鳴ってました!
いつ聴いても格好良い曲ですね。 これを40年前に作っていた事がスゴイ!

(C)飯島隆
取り巻く環境は厳しいと思われますが、演奏を聴いて元気が出てきました。
そうなんですよね、良い演奏をし続ける事、これに尽きると思いました。
5月5日の大阪城音楽堂、頑張ってください! 盛会を祈ってます
ここで第1部が終了致しました。 暫しの休憩タイムでございます。

大阪フィルの出番は第2部からでございます。
登場していないのにこのブログの量、大変な事になっております。
ただ、大阪フィルとしてこの「大栗裕没後30年記念演奏会」はしっかりレポートするべきだと思うのですよ。
記憶だけではなく記録としても残しておかねば、と云う事で後半です

お待たせしました、
大阪フィルの登場です

後半もいくつかの団体や個人が出演しますが、すべて大阪フィルが共演いたします!
まず最初にご登場頂くのは
『中島警子 桐絃社』 の皆さまです。
「春の海」で知られる宮城道雄直系の弟子でもある中島警子さんが結成された団体です。
写真は中島警子さんがゲネプロを終えてホッと一息つかれているところです。
指揮者は手塚幸紀さん。

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そして本番の写真です。
中島警子さんはお着物に着替えられています。
“筝と管弦楽による六段の調べ”が始まりました。
最初は中島先生お一人で弾かれ、直ぐに全員での合奏に変わります。

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八橋検校作曲「六段の調べ」、筝の曲としてはあまりにも有名ですね。
この曲、筝は「六段の調べ」をそのまま原曲を弾き、それにオーケストラが包み込むような編曲で原曲にメリハリを付けていきます。
大栗裕は八橋検校に対するリスペクトする気持ちからこういう作風を取ったのでしょうか。
筝とオーケストラのサウンドがこれほど自然に溶け合うとは、驚きました。

大阪フィルが“ファンファーレ 大阪における医学総会のために”を高らかに奏でた後、いよいよ合唱団との共演になります。
先ほど指揮をして頂いた大阪フィルOB泉庄右衛門さんが、阪神淡路大震災に遭遇したことを機に、心のケアのために1996年に開校した「唱歌の学校」を開校しました。
そのメンバーによる
『「唱歌の学校」心のうた合唱団』 で、2曲を披露してくださいました。
写真は交声曲「大阪証券市場100年」より記念祝歌のゲネプロの模様です。
この曲にはソリストが登場しますが、後で紹介します。

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“日本万国博覧会 EXPO70讃歌”の本番写真です。
合唱団のメンバーは本番中、自分達の出番以外もずっとオルガン前のクワイア席に座りっぱなしです。
すべての公演の背景になるのであまり動くわけにもいかず大変だったと思います。
そして迎えた本番、元気一杯日頃鍛えた歌を大きな声で歌って頂きました。

(C)飯島隆
交声曲「大阪証券市場100年」という曲、壮大な曲です! 全5楽章の大作だとか。
その中から第1曲“記念祝歌”はソプラノとテノールのソリストが入ります。
紹介しましょう、
ソプラノは栢本淑子さん、テノールは林誠さん。
ともに大阪フィルとの関りも深く、一世を風靡した歌手のお二人です。
華やかな曲で会場の温度もどんどん上がっております。
ここで皆さまお待ちかねのソリストが登場します。

3月いっぱいで大阪フィルを退団した元首席コンサートマスター
長原幸太さんです。
さん付けで呼ぶほうが照れるのですが

、そこはケジメですから。
久しぶりの長原さん、少しスリムになって精悍な感じに見受けられます。

ソロが休みで演奏を聴いている時の感じとか、懐かしいですね。
あの時の雰囲気そのままです。
スターヴァイオリニストって演奏していない時も‘絵’になりますよね。

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そして大栗裕作曲ヴァイオリン協奏曲より第3楽章、本番です。
阿波踊りの‘よしこの’のリズムをベースに作ったと言われる第3楽章。
確かに言われると「「えらいやっちゃ、えらいやっちゃ、ヨイヨイヨイヨイ、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々…」と唄われているようにも聴こえます。
ヴァイオリンが何かをしゃべっているような。

(C)飯島隆
3楽章だけですからアッと言う間の出来事でした。
必ずまた共演したいですね。
そう思っているのはメンバーも同じ。
彼に向けた拍手の音がやけに大きく感じました。

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オープニングの140人のホルン・オーケストラから始まって、お筝との合奏を経て、ヴァイオリン協奏曲ときて、最後を飾る“大阪俗謡による幻想曲”を振るのは手塚幸紀さん。
マエストロと大阪フィルの付き合いの歴史はかなり前に遡ります。
マエストロの定期デビューは1973年6月「第108回定期」で、ラヴェルの“ダフニスとクロエ”第2組曲がメインで、チャイコフスキーVn協奏曲、メンデルスゾーン交響曲第4番「イタリア」でした。
それ以降は毎年のように定期を振って頂きました。
オールドファンの皆さまは懐かしく思われた方も多かったと思います。

ゲネプロの光景もお見せいたしましょう。
コンサートマスターは崔 文洙(チェ・ムンス)。
今回のコンサートで大阪フィルが管弦楽として単独で演奏したのはこの曲だけです。

打楽器を見ればお分かりですね。
チャンチキに神楽鈴、そう“大阪俗謡による幻想曲”です。

(C)飯島隆
“俗謡”の初演版、いかがでしたか?
良く演奏される改訂版と比べると随分と違いがありましたね。
またマエストロのテンポも少しゆっくりめだったと思いました。
同じ曲でもこの違い、これがクラシック音楽の、オーケストラの醍醐味です。

(C)飯島隆
終演時間は、ほぼ当初の予定通り21時40分。
2時間40分の夢のような時間が終わってしまいました。
後で振り返っても、盛りだくさん過ぎて良く思い出せません

でも、楽しかったですね。
「すべて終わってみて、事故無く大きなトラブルなく、お客様にも終演時間の見込み違いなどでご迷惑をお掛けすることなく終了出来てホッとしております。」
ステージマネージャーの清水直行が後日、そう語っておりました。
あの大がかりな舞台転換を何度も繰り返すことの大変さ、いやーお疲れさまでした。
今回のコンサートを開催して大栗裕の偉大さが良く判りました。
と同時にこれはもっと大栗の音楽を演奏していく責任が大阪フィルにはあるのではないか。
そんな事をつくづく考えてしまいました

今回主催者の呼びかけに応えて、ご出演頂いた各団体の皆さま、有難うございました。
この企画に賛同しご協賛頂きました各社様、有難うございました。
企画段階からすべて手作業で、夢のようなハナシを現実に持って来られた発起人会の皆さま、大阪音大関係者の皆さま、お疲れさまでした。
そして、このコンサートに足を運んで下さった皆様、本当に有難うございました。
この長いブログを最後まで読んで頂いた方にも、感謝申し上げます。
いつの日か必ずまたお会いしましょう
